空色の瞳にキスを。
■1.銀の一族

1.運命の歯車

ルイ王国の都には、一際高い白い塔が聳えている。
整えられていると言えどもさほど大きくもないその屋敷が、この国の中枢であった。


その城には、国の未来を担う王族の一角がある。

甲高い子供の声が、魔術をかけていない扉の隙間から漏れ出てくる。

「ロウ!おじい様の昔話はもういいわ!他の話をして。」

主人として振る舞うのは小さなの少女だ。座った椅子から伸びた爪先が、不機嫌だと言うように落ち着きなく揺らされている。

「しかしですね、お嬢様……」

言葉を選ぼうとして台詞を区切った世話係の女は、むくれる小さな主人をどうするべきかと困り顔だ。

引き下がる様子のない世話係に、幼い少女は唇を曲げる。

「この話はとても大事なんでしょ?」

「はい、そうです。」

「でもだからって毎日聞かされるのはいやだと思わない?」

そう言うと少女は首をゆるゆると左右に振り、飽きた、と付け加えると背もたれに身体を預けた。

彼女の動きに従って仕立てのよい薄桃色のドレスの上に長い銀髪が流れる。

銀色はルイ王の色だ。
現王であるルイの息子のカイもその一人娘であるこのナナセも、王家の証である長い銀髪を受け継いでいた。

特に奔放な性格なナナセ王女は、違った意味でも有名だ。

「もうこんなところいやだ!」

叫んだ彼女は座っていた大きすぎる肘掛け椅子から飛び降り、窓に目を向けた。

十歩程先にある窓が、小さな指先から迸る魔力によって勢い良く開いた。
それを見て得意気に口角を上げ、窓へ向かって同時に走り出した。

「お嬢さま!?また飛び降りるのですか!!危ないです!おやめください!」

世話係のロウが必死に止めるが、軽々とすり抜けて、銀髪を揺らし振り返る。
その目が爛々と輝いていた。

「だいじょうぶ!
あたしはルイ・ナナセ。危ないわけないじゃない!」

きらきらした目で自慢気に笑って、王女は城の最上階の窓縁を軽やかに蹴り、躊躇いなく外へと飛び出した。
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