空色の瞳にキスを。

3.秘め事と泣き虫

国の北部にあるルイスには冬の期間が長い。
ルイスの厳しい冬はまだ2ヶ月ほどある、年越しを三日後に控えた年の暮れ。


「寒いね。」

「本当、寒いな。」


黒髪の少女と、ちょうど彼女と同じ髪色をした少年が人がごった返す通りを歩く。

普段堂々と通りを歩けない彼らが買い物へと出掛けているのには訳があった。

スズランの屋敷は年越しが迫るにつれて人が集まるようになる。
使用人たちは屋敷の掃除や料理、年越しの用意に駆けずり回り、人手が足りなくなっていた。

その為、普段は人目を避けているナナセたちにも仕事が回ってきて。
ナナセやルグィンは普段から屋敷を抜け出したりこっそり街へと繰り出す常習犯。
そこで二人なら安心だとスズランに買い出しを頼まれた。
アズキはまだ姿を変える魔術を使えないし、トーヤは呆れるくらいに買い物が長いから、という理由もあるのだが。

当の二人は買い出しの任務を喜んだので、スズランはそれ以上なにも言わなかった。


「これのことかな?
お祝いのお酒って。」

即席の屋台と違ってしっかりと構えられた店の入り口に置いてある酒の瓶を見て、ナナセが足を止める。
買い出しの品々をスズランに書き連ねられた紙をフードを深く被ったルグィンが見て、店名を確認する。

「違う違う。
店は…あってるな。」

所狭しと瓶が並んだ店の奥にいるであろう店主を探しにルグィンが中へと足を踏み入れる。

「お、いらっしゃい。」

顔に皺の刻まれた男が現れた。
中年でがっしりした男に、黒髪の少年が口を開いた。

「丘の屋敷の使いの者だが、毎年ここで頼んである酒を、今年も頼む。」

「お、そろそろかと待っていたよ。」

嬉しそうに店主が笑った。
スズランの屋敷が頼んだ酒は一級品で、いい稼ぎにもなっているのだろう。

「また前日に屋敷まで伺えばよろしいか?」

「あぁ、頼む。」

口約束だけでこの店は終わりのようで、ナナセが後ろで拍子抜けしていると、男が少年に隠れてしまっている彼女に声をかけた。

「お?
後ろのお嬢さんもあの屋敷の方かい?」

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