空色の瞳にキスを。

2.時計塔と出会い

──それは、たった数ヵ月前の話だった。


夕方、日が沈むのがだんだん早くなり、もうリョウオウにも夕闇が迫る。

領主の開いた小さな街の学校の校門は、朝とこの時間が一番賑わう。
学年ごとの色分けがされた簡素な制服がわらわらと道に出てくる。

街にひとつしかない中等学校は、魔術の才には乏しい者が大半を占める。
というより、魔術の才のない人間のための学校だ。


「あ、アズキちゃん、また明日!」

前を歩く女の子が、後ろを振り返って茶髪の女の子に手を振った。

その少女は顔を上げ笑ってまた明日と彼女に小さく手を振る。


茶髪の少女──アズキは初等学校を並みより上の成績で卒業し中等学校に通うことになって今年で四年。
あと一年で卒業だ。


「アズキ、今日はこれから暇?」

一番の仲良しのナツが、アズキの隣へやって来た。
二人が着ている白地のワンピースには、襟の学年色の赤い縁取りがある。


「あ、今日はトーヤが来るんだ。」


アズキはごめんね、と困ったように笑う。

トーヤは一学年下の三年生として同じ学校に通っている。


ナツが彼女の方を向いて、気を悪くした風もなく仲良しだねと笑う。
ナツはそういうことを気にしないからアズキは好きだ。

「トーヤ君って、お父さん同士が仕事仲間なんだっけ?」

「そうだよ。」

その声に顔をあげる少年。
ひとつ下のこの少年の澄んだ目が年よりも幾分幼く見せる。

宝石商人のトーヤの父と、宝石職人のアズキの父は昔からの顔馴染み。

年の近い子供が生まれてからは家族ぐるみで仲良く付き合いだしたらしい。

大きくなった今でもトーヤは遊びに来ている。

 週の終わりの金の日は、いつもトーヤの家族と集まる。
「そっかー。
先約はしょうがないな、じゃあまた今度遊ぼう!」

「ありがとう。また誘ってね?」

アズキは明るい茶色の髪をふわりと揺らして、ナツに笑ってまた明日と手を振った。

ナツと別れて家路につくと、必死で何かを探している少年がいた。
もう見慣れた短い髪に、健康的に焼けた肌。


「トーヤ、何してるの?学校は終わったの?」

「今日は休みだったから俺、町に行ってたんだけど……旅人が降ってきてさ。」

「え!ずるい私も見たかった!」

「そう言うかと思ってさ、アズキに会わせようと連れていこうとしたんだけど、なんでか見失った。」

それも街の通りで見失ったらしい。
どうして見失ったのかとアズキの脳内に疑問はたくさん浮かぶが、まずは探す方が先決である。
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