空色の瞳にキスを。
話し終えるとハルカはクスリと笑い、アズキに言う。

「あなた、耳がいいのね。
トーヤが聞こえないあたしの声を、アズキは聞いてしまうんでしょう?」

あはは、と笑ってアズキは続ける。

「じゃあハルカさんが泣いていたのも私の聞き間違いじゃないよね?」

「え……。」

アズキの言葉に、ハルカの笑顔が固まる。
満点の星空の下、アズキの声が静かに消えた。
ポカンと一瞬呆れたトーヤは、アズキの背中を小突き小声で責める。

アズキは自分の言ってしまった言葉にさっと青ざめる。
突然の質問に驚きで固まったあと、ハルカは小さく笑って口を開いた。
その笑顔はやはりどこか儚げだ。

「聞こえていたかぁ。
昔いた街のこと、思い出しちゃって……。」

それきり彼女はなにも言わなかった。

「そっか……。」

割とあっさりとした答えにほっとしつつ、アズキは答えると、隣から小さな笑顔と頷きが返ってきた。

「ねぇ、ハルカさん旅人なんでしょう?」

「うん、この歳での旅人は珍しいけど、割と長い間やっているわ。」

夜の闇のなかでキラキラとアズキの瞳が輝く。
「ねぇ、うちに居候してよ。
部屋はあるし……私、友達になりたいな。」

最後の方は恥ずかしさで声は小さくなっていったけれど、アズキの言葉は確かにハルカに届いた。

「本当?いいの?ありがとう。」
ハルカは心から嬉しそうに笑う。
「うん。改めてよろしくね!」

トーヤの隣で笑うアズキはいつもよりも何倍も明るかった。
いつも大人しいアズキにこんな笑顔を持ち込む、このハルカという女の子は何者なんだろう、とトーヤが思ったほどだった。
銀の砂を撒いたような夜空の下、ハルカは立ち上がる。

「じゃあ、ここは寒いしアズキの家に行こう?
父さんや母さんにも心配されるでしょう?」

ハルカの右手に持った白い魔術の光が彼女の動きに合わせて揺れる。
隣のアズキも笑顔で頷いて立ち上がる。
トーヤもゆっくりそれに倣う。


三人で向かい合ったらハルカが口を開いた。

「改めて、よろしくね。
あたしはハルカ。
旅をしながら、今は魔術医師もしているの。

きっと、居候している分程は稼げると思うわ。」

リョウオウの二人は聞かされた彼女の職に、驚きを隠せない。

アズキはふと疑問に思ったことを口にする。

「名字はないの?ハルカだけ?」

その言葉に、問われた彼女はクスリと笑う。
瞳の光はゆらりと茶色が揺れて、少し不思議に見えた。

「……無いわ。ごめんね。」

そっと隠された名字に、もしかしたらハルカはどこかの貴族の娘なのかも、とアズキの頭を過る。

さぁ、行きましょと雰囲気を切り換えたハルカの声がアズキにそれ以上考えさせなかった。

ぎゅ、と二人の手を片手づつ取ると、弾けるような笑みでハルカは言った。

「空を飛ぶよ!」

魔術で飛んだことなどないアズキとトーヤはさっと青ざめた。


本当のことがわかるのは、まだまだ先。

このときは降って沸いた旅人という少女に、ただ胸踊らせていた。
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