空色の瞳にキスを。
■7.過去と今

1.銀の繋がり

舞台は同じ国の南部、昼間は白が美しい城へ移る。

ルイの城の廊下に闇に溶けるように佇む赤髪の男。

明かりの無い廊下に一人音も立てずに居る彼は、そっと目の前の近隣国随一の蔵書量を誇る、書物庫の大扉を見上げる。


彼の足元には眠りこける男と同じような軍服の男がふたり。

扉の前に肩をいからせて番人のように立っていた男たちを錯乱させた挙げ句眠らせたのは、この男。
静かに扉を開き、その中へと体を滑り込ませる。

忍び込んだ蔵書室の中にも監視がいるし、蔵書室自体に攻撃魔術を禁止し蔵書を護る魔術がかけてあることは承知済。

得意の錯乱魔術は一度使って警備員が駆け込んできたから、得意技は使えない。

天井の高い華やかな部屋に、自分の靴音が響かぬようにそっと歩く。

扉を開けた誰かを警戒して巡回を始めた監視の人間の靴音を彼の赤い耳が拾い、監視と出くわさないように神経を尖らせる。


─今日の狙いは最奥の本棚。

蔵書室の監視の人間が物音のしなくなったこの部屋に安心して巡回をやめた頃。

息を潜めていた赤い狐耳の男は目当ての本棚にそっと手をつける。
鼻についた古い羊皮紙の匂いや、剥げた背表紙の金文字に僅かに目元を緩めて、瞳を閉じた。

再び開いた瞳は鋭く、暗闇にそれが光った──かと思うと強い光を一瞬放って、消えた。


光に気づいた監視が駆けてくるが、そこには誰もいない。

また最近よく出る幽霊の仕業かと彼らは所定の椅子に座り直した。
それを背中に、暗赤色が廊下を駆け抜ける。

途中ばったり出くわした金髪の男が驚いた様子を見せたが、気にせず自室へと飛び込んだ。
ぶつかりかけたのはサシガネとかいう最近やけに王に近付く首狩りだったが、そんなことを気にしている場合ではない。

先程使ったのは、彼の得意な干渉系の魔術の一種。
ある特定の範囲の文字を特殊な魔術で全て掬い上げるこの術は、透視に近い。

─これで王城の本棚を探し切った。

─閲覧禁止の場所の書物も、すべて頭に入れたのだ。


─けれど、どこを探しても初代や先代や元国王の繋がりを示す、血筋の記録が、ないのだ。

その類の本が焼かれた記録が蔵書室から見つかったのみ。



─それは、つまり─


赤い瞳が暗闇の中、動揺でぐらりと揺れた。

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