長靴をはいた侍女
「『プリュゥイ』じゃない……『はい(ウィ)』だ」

 愚かな唇の動きを、彼はたしなめる。

 彼女が、眩しそうに目を細めた。

「……ウィ」

 やっとだ。

 本当にようやく。

 ロニの口から、『はい』を引き出すことが出来たファウスは、空を仰いで身体の中の空気を一度全部吐き出した。

 それでようやく落ち着いた彼が視線を下ろすと、すっかり赤くなった顔で、彼女はこちらを見ていた。

 そんな彼女の頬に、親愛の唇を寄せながら、ファウスはこう囁いた。


「次の長靴は……私が贈ろう」


 そして。


 長靴をはいた侍女は、ファウスにとって──長靴をはいた妻となったのだ。






『長靴をはいた侍女 終』


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