長靴をはいた侍女
 首をひねりながら玄関をノックすると、執事頭自ら出迎えてくれるではないか。

 執事頭といえば、この屋敷の使用人のトップである。

 何度か会ったことはあるが、いきなりこの人を相手にしたことはなかった。

 それでも、彼女はいつものように手紙を渡して帰ろうとしたのだ。

『少し待ってくれるかね?』

 初老の執事頭にそう言われ、彼女は濡れた靴を気持ち悪く思いながらも、玄関で待ったのだ。

 結構待たされた。

 動けないせいで、身体はすっかり冷えてしまった。

 戻ってきた執事は、手紙を差し出しながら『これを、届けておくれ』と言ったのだ。

 初めてもらった返事だった。

 慌てて、カバンに厳重に返事をしまいこむ。

 それではと挨拶をして帰ろうとしたロニは、立て続けに三回もくしゃみをしてしまった。

 持ち帰った返事は主人を喜ばせたが、ロニは熱を出してしまう。

 下っ端侍女にしては、ありえない看病と食事を与えられ、彼女は何とか次の雨の日までには元気になることが出来た。

 次も、ロニは玄関で待たされた。

 また、冷たいまま捨て置かれるかと思っていたら、一度主人の元へ戻った執事が、急いで戻ってきたのだ。

 もう返事を書いたのだろうか、助かったと思っていたら、ロニは彼に火の入っている調理場のかまどの前に連れて行かれたのだ。

 ここで待っていなさいと言われ、気づいた。

 きっとロニの主人が、手紙で一言書いてくれたに違いないと。

 暖かいところで待たせてもらえたおかげで、彼女は返事を持って帰っても風邪をひくことはなかった。

 その次からは、わざわざ火を入れただろう応接室で待たされた。

 ぐちゃぐちゃな靴が、恥ずかしいほどの立派な部屋だ。

 勿論、ソファなどには座らず、暖炉の前で立って待った。
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