ぬくもりをもう一度
一切振り向かずに改札口へと

入っていった香澄が、

とても遠い存在のように思えて

胸が苦しくなったのを覚えている。


最後まで、香澄には

“キスした”ことを

悟られることはなかった。


いや、もしかしたら

気付いていたのだろうか。


もしそうだとしても香澄のことだから、

俺の不器用なごまかしに

優しく合わせてくれたのかもしれない。


変な詮索をすることなく、

ふわりと笑顔を残して

香澄は行ってしまった。


その後ろ姿が愛しく感じながら、

俺はただただ見つめ続けた。





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