赤い月 肆

ここにきて、私に焦燥感が生まれた。

今までこんなところで躓くことはなかったのに。
人間なんて、いつだって呆気なく殺せたのに。

その上、女の心に変化が芽生えだしていた。

女は男を諦め、男の幸せを願おうとしていたのだ。

なんてこと!
なんてこと!

女が男を求めなければ、私のしていることが無意味になってしまう。

心が壊せなくなってしまう。

後一息なのに!

私は賭けることにした。

男が大事にしている彼女を、女が殺したように見せかける。

そうすれば、男は女を責めるだろう。
激しく憎悪するだろう。

それを女に体感させてやろう。

罵られ、殴られ、蔑まれ…

あぁ…
考えただけでゾクゾクするわ。

私が手を下すまでもない。

女は、愛した男に心を壊されるのだ。

私は危険な賭けに勝ち、男は怒りに拳を震わせながら私の前に立った。

やったのは私じゃない、なんて泣き叫んでも、もう遅い。

男には聞こえてないわ。

さぁ…

男の憎悪に晒されるがいい。
心を砕かれるがいい。

< 226 / 265 >

この作品をシェア

pagetop