赤い月 肆

黒曜の涙と引き換えに、妾の願いは叶えられた。

叶えられた、と思っていた。

だがある日、妾は目醒めた。

そして気づく。

黒曜は妾を諦めてなどいなかった。

妾を封じる事で、魂を癒そうとしたのだと。

確かに、長い眠りは安らぎを与えてくれた。
新たな目醒めを魂が感じた。

だがそれは、魂の再生ではなかった。

記憶はある。

なのにそれを懐かしむ気持ちも、愛おしむ気持ちもない。

ただただ、虚しいだけ。

あの頃の妾はもういない。

やはり妾は死んだのだ。

だから、逃げた。

妾の覚醒に気づいた黒曜が追ってくる気配を感じたが、逃げ続けた。

黒曜の失望を見たくなかった。

もう死んだものと、忘れて欲しかった。

そして妾は名も無き亡霊として、今の世を彷徨った。

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