玄太、故郷へ帰る



「あっ、あ――、この杭だ。この杭」


玄太は、目印の杭を見つけた様だ。
杭は先の赤いヤツで、雪の中からかろうじて頭を出していた。


シャリ、シャリ

……用意がいい。
よく見ると玄太は、小さなシャベルまで持って来ている。


「げんちゃんの、必要なものが入ってるの?」


穴を掘る玄太の姿を見て、お腹をさすりながら、弥生ちゃんはワクワクしている様子だ。


……ああ。
箱の中身が空っぽだとも知らずに。

私は、二人に気がつかれない様に、小さな溜め息を吐く。


「うん、そうだよ。とっても大事なものだ」


そう言って相変わらず、玄太の顔は得意気だ。


シャリ、シャリ
ガリ、ガリ
ザッ……
ガ、ガ、ガリ


「あった……」


土の中から玄太が取り出したのは、やっぱり例のブリキの箱。

あの頃に比べて玄太の手が大きくなったので、一回り小さく見える。
でも、間違いない。


「たのしみだな」


「楽しみだろう」


玄太の華奢な指で、ブリキの箱は開かれる。
私は、箱の中身を知っている。

それは、空っぽという名の……


「かぎ?」




< 34 / 38 >

この作品をシェア

pagetop