碧い月夜の夢
 そして、レオンは心持ち顔を近付けて。



「もしもーし、起きてるか?」

「おっ…起きてるよ」



 いや、これは夢なんだから、本当は寝ているのだが。

 あ、でも、夢の中で今はちゃんと起きて話を聞いている。

 考えれば考えるほどややこしくなり、凛々子は深く考えるのを止めた。

 深く考えるとどんどん頭が混乱してくるから、ここは取り敢えずちゃんと、レオンの話を聞いた方がいい。

 そう思い、凛々子はレオンの方に向き直る。



「あのね、あんたが何を言おうとしているのか全く分からないけど、あたしにとってこれは間違いなく夢で、朝になって目が覚めたらアルバイトに行かなきゃならないの。だからね、なるべく分かりやすく、手短かに、今の状況を説明してくれるかな?」



 今夜の夢が始まって以来の長い台詞を、凛々子は一気に吐き出した。

 そんな凛々子の言葉を、レオンはじっと聞いている。

 そして、ようやく凛々子の頭から手を離すと、深いため息をついて。



「毎日毎日、眠るたびにあの黒い影に追いかけられる夢を見てるんだろ?」

「……そうよ」



 毎日、毎日。

 ここ1ヶ月間ずっと、寝る度に。

 そのせいで頭痛が始まり、寝覚めがすこぶる悪くて。

 でも、どうして?



「どうしてそんな夢を毎日見るのかとか、少しも考えなかったのかよ?」

「今、そう思った」

「……もしかしてオマエ…天然?」



 言い返す言葉もない。

 強いて言い訳をするなら、毎日仕事で忙しく、そんなことを考える暇がないのだ。

 まぁ、アルバイトを掛け持ちしてまで働いているのは、生活の為だけではなく、敢えて忙しくしていることによって余計な事を考えたくなかったからでもある。

 
 ……完璧に、言い訳でしかなかったが。



「まぁ、オマエの現実世界での生活を見たことはねェけどな。何があったのか大体想像出来るし、だからどうしてオマエがあの黒い影に追われるのかを、俺は知ってる」



 レオンは真っ直ぐに、凛々子を見て言った。
< 15 / 77 >

この作品をシェア

pagetop