碧い月夜の夢
「ちゃんと見ろよ。人間みたいな形をしてるだろ?」



 ――…確かに。

 あの集団をよく見ると、一人ひとりが見たことのないような形のヘルメットを被り、その手には剣のような武器を持っていた。



「…何だか気持ち悪いね」

「やっと、認識出来たな」



 半ば呆れたような、半ばほっとしたようなため息をつきながらレオンは言う。



「さっきから何よ、認識とか、あんたの世界とか」

「いいか、さっきも言ったけど、これはオマエにとっては夢の中の出来事かも知れない。だが俺達にとっちゃこの世界が現実なんだ。何故なら」



 ここで一旦、レオンは言葉を切った。

 凛々子は崖の下に向けていた視線をレオンに戻す。

 その表情は、さっきまでの砕けたものとは違い、真剣で険しかった。



「オマエはもう、この世界で俺達と繋がっているから」



 ――…本当に。

 自分の精神状態は、果たして正常なのだろうか?

 凛々子は、そう思わずにはいられなかった。

 レオンが自分の説明を理解しろと言うのならまず、そこから説明してもらわなければならない。

 “?”マークを頭の上にたくさん並べている凛々子を見て、レオンは苦笑する。



「オマエが何故、こんな夢を見るようになったのか…知りたいか?」



 それは、当然、知りたい。

 だけど、凛々子の心の何処かで、理由らしいものが漠然と浮かんでいる。

 もしその予想が間違っていなかったとしたら…何故こんな夢を見るようになったのかは、聞きたくない。

 凛々子の現実の世界と、この夢の世界の共通点は“逃げている”と言うこと。

 凛々子は無意識に、長袖のシャツの左腕を右手で擦っている。

 そんな凛々子を見つめながらレオンはこっちに近付くと、その肩に手を置いた。



「…でも…ま、追々分かる事なんだ。焦る事はない、か」



 そんなレオンを、凛々子は見上げた。

 レオンはニヤリと笑って。



「だってオマエ、頭で理解するよりも身体で覚えるタイプだろ? 一気に説明したところで分かる訳がねェもんな!」

「なっ…!?」



 何て失礼なヤツなんだと、凛々子は文句の1つも言い返してやろうと息を吸い込んだが。

 そんな事はない、と、胸を張って言い返せない自分が悲しい。

 吸いこんだ息は、ため息にしかならなかった。

 元々、あまり深く物事に悩むタイプではなかった。

 後先考えずに行動するタイプ。

 本来の凛々子は、そう言う人間なのだ。

 ……だけど。

 少し悔しかったから、もう1つ質問をぶつけてみた。
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