碧い月夜の夢
「……まさか」

「その“まさか”だよ。ここには“時間”なんてない。だから、もしもオマエがアルマに捕まったら、 目覚める事なんてないんだ。オマエの現実世界では、ただ一晩寝ているだけかも知れないが…こっちでは、永遠に時間が続くんだよ」



 ……愕然とした。

 凛々子はヘナヘナとその場にうずくまる。



「あ、そこで落ち込むってことは、オマエもようやく今の状況を把握してきたってことだな」



 心なしか嬉しそうに言うレオン。

 冗談じゃないわよ、と、凛々子はうなだれる。



「何を悠長な事言ってるのよ…アルマに捕まったら未来永劫、こんな訳の分からない夢の世界に閉じ込められるってことでしょ?」

「ま、そんなにクヨクヨすんな。だから俺がいるんだよ」



 そんなレオンの言葉に、凛々子は顔を上げた。

 レオンはにっこりと微笑んで、凛々子の目の前にしゃがみ込む。



「俺の仕事は、オマエみたいな人間とテルラの繋がりを断ち切る事だ」

「じゃ、今すぐお願い」

「それはムリ」

「何でそこで即答するかな」



 凛々子はむくれる。



「色々としがらみがあるんだよ。オマエがこうなっちまった理由もな。ま、時間はたっぷりあるんだ、気長に行こうぜ」

「………」



 出来れば、本当に手短かにお願いしたい。

 余りにも、先が見えない。

 一体いつまで、こんな夢を見ていなきゃならないのか。

 絶対に精神衛生に良くない。



「大丈夫だって。俺はこの道じゃエキスパートだからな。大船に乗ったつもりでいな」



 そう言って、レオンは凛々子の頭をぽんぽん、と撫でた。

 そしてふと、空を見上げて。



「そろそろ、時間だな」

「時間なんて関係ないって言ったじゃない…」



 不貞腐れたまま、凛々子はレオンと同じように、空を見上げた。

 さっきまでの真っ暗な夜空が、微かに白み始めている。

 まるで、夜明けのように。



「夜明け…?」

「この世界に唯一ある時間。お目覚めだよ」



 レオンの言葉は、何処か遠くで聞こえた。

 お目覚めと言っているが、凛々子は強烈な眠気を感じている。

 レオンは立ち上がり、笑顔を浮かべながら軽くグローブの右手を上げた。



「またな」



 最後に聞こえたのは、そんな言葉だった。
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