碧い月夜の夢
 確か、ずば抜けて生物とか理科に詳しくて、夏休みの自由研究ではいつも、その成果を全校生徒の前で発表してたっけ。

 そしてその発表は、凛々子には到底理解出来るような内容ではなくて。

 葉っぱの細胞なんぞには全く興味はなかったが、なぜ普段はあんなに大人しい桜井浩二が、発表の時だけあんなに生き生きと喋れるのかという方が、凛々子の興味を誘ったものだ。

 そんな桜井浩二は、面影こそは残してはいるが、高校を卒業した今では、あの頃と雰囲気がガラリと変わっている。

 帽子をかぶりなおして屈託のない笑顔をこっちに向けている目の前の同級生は、きっと今、周りの女の子達が放ってはおかないだろう。

 だが凛々子は、中学の時の事は思い出したくもなかった。

 実際、今でも付き合いがあるのはサヤカだけだし、これからもそれ以外の同級生とは、関わる気もない。

 だからここは、早めに切り上げておきたいというのが本音だった。



「今日は何処かにお出掛け?」

「あぁ、中学の友達と、久しぶりにカラオケ行く事になってるんだよ。あ、安堂さんも知ってる奴等だよ」



 いやぁ、懐かしいなぁ~と、桜井浩司はしきりにニコニコしながら凛々子に話し掛けている。

 凛々子には、そんな懐かしさも何も感じなかった。

 ただ、気になったのは。



「何処のカラオケ?」



 まさかと思いながら、凛々子は聞いた。



「この近くの“サウンドラッシュ”っていう店だよ。あそこさ、部屋がキレイで、可愛い店員がいっぱいいるって聞いたから」



 やっぱり嫌な予感は当たるものだと、凛々子は内心うなだれた。

 そこは、凛々子がアルバイトをしているカラオケボックスだ。



「そう…じゃ、楽しんで来てね」



 そう言って、凛々子は手を振ると歩き出した。
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