碧い月夜の夢
 礼だけ言ってそそくさと帰っていく親子の後ろ姿を、呆然としながら凛々子は見送った。

 学校の担任や両親も、凛々子は何も心配しないで今まで通りに生活していいんだと、必死に言っていたが。

 噂は噂を呼び、だんだん膨れ上がって街中に広がっていき、気が付いたら学校で話し掛けてくれる友達はいなくなっていた。

 それどころか陰で“人殺し”と言われて。

 その時既に、凛々子には分からなくなっていた。

 あたしがしたのは、さらわれそうになっていた女の子を助ける行為だったのか。

 それとも、やってはいけない罪なのか。

 あの時の記憶は、途切れ途切れで。

 いいことをしたのが、そんなに悪かったのか……もう何も分からなくなって、眠れない夜が続いた。

 ――…そんな状況が続き、凛々子は、学校に行くことを、やめてしまった。



「辛かった、な」



 不意に、そんな言葉が聞こえた。

 凛々子ははっとして、振り返らずに言ったレオンの背中を見つめる。



「こんな状況じゃ、逃げたくもなるよな……だがな」



 言いながら、レオンは体勢を低くして身構え、グローブをぎゅっと締め直す。



「俺はアルマの、こういう所が一番嫌いなんだよっ!!」



 言い終わるか終わらないかのうちに、レオンはクラスメイト達の中に突っ込んで行った。



「人の弱味につけ込みやがって!!」

「レオン!!」



 凛々子は叫ぶ。


 レオンは手当たり次第、クラスメイト達を殴り倒していた。

 だが、そんなことはお構い無しにクラスメイト達は、口々に凛々子を中傷しながら、こっちに向かって指をさし続けている。



『人殺し!!』

『アイツは人殺しなんだ!!』



「うるせぇぇぇっ!!!!」



 一人の胸ぐらを掴み、その顔を殴り倒す。

 倒れても、クラスメイトはまたすぐに起き上がり、笑いながら凛々子に指をさす。

 だが、レオンは動きを止めなかった。



「やめて…」



 そんな光景を見ながら、凛々子は思わず呟いた。

 右手で、左腕を強く強く掴みながら、一歩、前に出る。



“逃げないで、現実と向き合うんだ”



 魔法の言葉を、思い出して。



“君は、一人じゃない”



 ――…そうだ。

 こんな風に、自分の為に戦ってくれる人がいる。

 そうなんだ。

 現実に、起こった出来事。



「やめて!!」



 凛々子は叫びながら、まだ殴りかかろうとしているレオンをクラスメイト達から引き離した。

 そして、レオンを後ろに庇うと両手を広げて、クラスメイト達の前に立ちはだかる。
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