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薬学部1年の俺は前期試験前最後の

基礎生物(植物)の授業を受けている。

授業内容は植物の各部位の説明や

バイオテクノロジーの基礎が主である。

今日の授業は、

教授の用意した写真画を基にスケッチするというもの。

スケッチと言っても描くだけでなく、

薬材として使う部位の加工方法や効能など、記す事は多い。


皆、真剣な表情で描き込んでいる。


すると、


「君はシクラメンか。描き出すなら花弁でなく根茎にしなさい」

「…はい」


教授が俺の隣りの生徒に声を掛けた。


「シクラメンは根茎に猛毒があり、嘔吐・下痢・胃腸炎など特に注意しなくてはならない」

「……はい」


隣りの生徒が少し項垂れると…


「ほぉ~君は実に細部まで描き出しているね」


教授が俺の絵に声を掛けて来た。

俺は恐る恐る華鬘草(ケマンソウ)の絵を見せると…


「華鬘草の花言葉を知ってるか?」

「はっ?あっ、…いえ」


突然、何を言い出すかと思えば…花言葉?


「花言葉は従順。従順とは、何を考えているか表情を表に出さずポーカーフェイスを装うが、実は気の利くタイプとも言われている」

「はぁ…」

「別名・鯛釣草。桃色でハート型をしており可愛らしさがあるが、全草には毒がある。鎮痛として用いるがやはり大量摂取は危険である。故にポーカーフェイスと言われている」

「おぉ~」


他の生徒からも感嘆の声が上がる。


「こういうプラスアルファを覚えておくと良い」


教授は俺の肩をポンと軽く叩き、優しい笑顔を向けた。


もしかして……これがヒントか?

俺は淡い期待を胸に抱き始めた。




そして……、試験当日。

1限目の基礎生物(植物)の試験で…。


「では、始め!!」


試験開始の合図で一斉に問題用紙を表に返す。

目の前には試験問題とされる『処方箋』が1枚。

そこに記されている薬品の原料(成分)

と効能を示せという問題だった。


俺は目の前の試験問題に思わずガッツポーズを。

…フッ、やっぱり『華鬘草』だ!!


 ~FIN~


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