親友を好きな彼


巨大なクリスマスツリーに、定番のクリスマスソング。

着いたホテルは、中心に位置するごく一般的なホテルだった。

結婚式にも使われたり、レストランもあるせいで人の出入りが多い。

そんな場所で、嶋谷くんが案内してくれた部屋は、スイートルームまでとはいかなくても、クリスマス用にしつらえられた雰囲気のある部屋だった。

あらかじめ予約もされていて、ますます誰と来る予定だったのかを邪推しそうになる。

街が一望出来る25階のダブルベッドのある部屋。

オレンジ色の光が、落ち着いた雰囲気を醸しだしていた。

小さなツリーがチェストに飾られ、赤いリボンで飾られたスパークリングワインと、フルーツの盛り合わせがテーブルに置かれている。

だけど、それらに目もくれず、そして私も何かを言い出せないでいるなかで、嶋谷くんは背後から抱きしめてきたのだった。

優しく包み込む様に私を抱きしめる腕を、振りほどく事が出来ない。

こんな日に、二人で過ごす事に同意をしたのは私。

ここについて来たのも私。

全ては自分の責任で…。

「由衣」

ドキッとするくらい、低くて甘い声で名前を呼ばれたと思ったら、次の瞬間には肩を掴まれ振り向かされていた。

「嶋谷くん…」

驚くほど真剣な顔つきに、それ以上の言葉が続かない。

「聡士って呼べよ。こんな二人きりの時くらい」

「それじゃ、まるで…」

“恋人同士みたいじゃない”

そう言おうとしてやめた。

だって、それを口に出すと、私たちの今の状況が一瞬にして嘘になるから。

もちろん、最初から嘘だと分かっているけれど…。

お互い好きでもないのに、今何をしようとしているのか、それを考えればすぐに分かる事。

だけど、少しの間だけ夢を見たい。

誰かの温もりを感じる事も、求められる事も、あまりにも過去すぎて、その寂しさを埋めたかったから…。

「聡士…」

言われた通り、その名前を呟いた瞬間、聡士の唇が私の唇を塞いだのだった。


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