親友を好きな彼
二年越しの想い


「大翔…」

真っ直ぐ見つめる瞳は、私が昔から知っている誠実な瞳。

いつもこうやって、私を見てくれていたから。

「別れようと言ったのは俺だけど、あれから心底後悔していたんだ」

「う、うん…」

“好きだから別れたい”

それが大翔の想いだった。

それを言われた時、どれ程どん底に突き落とされたか。

寂しさを埋めたくて、さらに仕事に没頭した。

同級生の幸せ報告が、憂鬱で仕方なかった。

それはやっぱり、大翔がいなかったから…。

聡士に惹かれるのも、寂しさを埋めてくれる人だから?

そんな風に思えて仕方ない。

音楽すら鳴らない車の中で、しばらくお互い見つめ合う。

人通りも少ない場所という事もあり、とにかく静かだ。

こちらの心臓の音が、聞こえるんじゃないかと思うくらいに。

「大翔、私も別れたいって言われた時、何もかも無くした気持ちだったよ」

あの時、プロポーズを受けていれば、今と違った未来があったはず。

その方が幸せだったのか…。

それは、分からない。

分からないけれど、大翔に再会出来た嬉しさは間違いなかった。

「由衣…」

泣きそうな顔で、大翔は私の頬に手をやる。

この仕草は大翔のクセ。

そう…、これは…。

ゆっくりと顔が近付き、大翔の懐かしい唇が重なった。

頬に手をやる時は、キスをするサイン。

聡士は強引にキスをする時があるけれど、大翔は違う。

いつだって優しかった。

重なり合う唇に、車内で響く音はキスの音だけ。

「これ以上は、何もしないから…」

唇を離し、大翔は私の髪を撫でながら言った。

その言葉に、小さく頷くしか出来ない。

「だけど…、嫌じゃなかったから。キスをしてくれた事…」

きっと今、無理矢理してしまったと、後悔していると思う。

そういう人だから。

だから正直に自分の気持ちを伝えると、大翔は安心した様な笑顔を浮かべたのだった。

「メシを食ったら行きたい場所があるんだ。少し付き合ってくれるか?」

「うん。いいよ?」

何だろう。

心当たりはないけれど、大翔は清々しい表情で車を走らせたのだった。

左手は、私の手を握ったまま…。


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