眠れぬ森の美女
「もう~。たった98時間、一睡もしてないってだけで大袈裟ね」

「98時間?!」

あと二時間で百時間よ、と姫様は明るく言いました。

「夜更かし通り越してご病気ですよう。」

「ちょっとこい、賢者」

「なんでしょう」

王様は賢者をよび、ひそひそ声でききました。

「おまえは確か、

医師の資格を持っていたな。

医師として、診断するとしたら娘は何の病気だ?」

「…えーと、『眠れぬ病』ですかね。」

「眠れぬ病…」

初めてきく病名だったので、

王様は、一人娘のために心配でたまらなくなりました。

「たぶん。」

「私はなにをしたらいい?」

「そうですねえ…姫様には、かの有名な森で寝ていただくしかないでしょう。」

「かの有名な森、とは?」

「むかしむかしどこぞの美女さんがすやすやとお眠りになっていた森ですよ。」

「なるほど。げんかつぎか。うちの娘も美人さんだからな。」

動きさえしなければ、

そして喋りさえしなければ、

姫様はとっても優雅に見える人でした。

「確かに顔だけはいいセンいってますが、

むろんそれだけでは御座いません。

あそこには世にも珍しいオーターベット、

なるものがあるのです。」

「オーターベット?」

発音からして、異国の国の言葉のようです。
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