矢刺さる先に花開く


「優しく穏やかな波だったり、此度のように雨を伴い激しい波となったり。…嵐に遭うのは恐ろしいこと。それは海の一つの表情に過ぎぬ」


「は、はい…」


「表情豊かな海を間近で見る為船に乗る。…誠楽しきことぞ?」


経子は、今の今まで海は恐ろしい場所でしかないとばかり思っていた。


だが…海のことを楽しそうに話す重盛を見るうち、さような考えもあるのかと感心していた。


「まぁ、私も最初は海が恐ろしかったがな。海の楽しさを教えてくださったは父上であった」


(御義父上様は…昔から海に親しんでいらっしゃったようですものね)


「……私の実母は、父上が話す海の話が大好きであった」


ぽつりと洩らす重盛。


「…私にも、聞かせて下さりませ」


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