今夜 君をさらいにいく【完】
私は引きつった笑顔を返しながら乾杯した。
よくもそんなクサイセリフが言えるもんだ。
「・・・アユム君さぁ、今日仕事だったんじゃないの?その格好・・・」
あの時間にスーツで歌舞伎町付近にいるなんて、仕事だったに違いない。
「あはっ!ばれちゃいましたぁ!?そう、今日仕事でしたよっさっき休むって連絡入れたら怒られちゃいましたけどねぇっ」
「本当は私を客にしたかったんじゃないの?」
「まぁーそう見られても仕方ないっすけど・・・」
アユムは食べかけのピザを一口で全部頬張るとしばらく無言になった。
まずいことでも言ったのかと考えたが、何も思い当たる節がない。
その時、真顔で私を見つめてきた。
「・・・今日、出勤前に同伴できそうな子いないかなぁって思って、あそこに立ってたんです。そしたら恵里香さんが目の前を通り過ぎてって・・・そん時、胸をぎゅーって締め付けられる感じがしたんです」
「・・・それって私にときめいちゃったってこと?」
冗談混じりに笑って言った。こんな口説き文句に誰がひっかかるのか。