今夜 君をさらいにいく【完】
真実



黒崎さんとの関係は安定していた。


会社では以前のようにクールで厳しい上司だけど、ふとした瞬間に優しい瞳で笑ってくれる時がある。その、私にしか見せない表情に気づいた時、心が大きく跳ね上がる。


そんな些細なことがすごく嬉しかった。


朝起きると、嫌な一日が始まり、見えないゴールをただひたすら走り続けていたあの頃が懐かしく感じる。大切な人ができるとこんなにも毎日が変わるものなのだろうか。


だからといって借金が消えたわけではないが、黒崎さんがそばで見守っていてくれているというだけで生きる糧にもなったし、毎日が明るくなり、上を向いて歩くことができた。





私の事を癒しだと言ってくれた飯田さん。お金を貸してくれると言ってくれた時は正直心が揺らいだ。


でも、それではただ飯田さんを利用しているだけではないのか。


彼自身そうしたいと言ってくれているが、その優しさに付け込んで甘えることなどできない。

ましてや黒崎さんという彼氏がいるのに、他の男にお金を借りるというのは前代未聞だ。


やっぱりキャバクラとコールセンターで働いて、少しずつでもお金を返していくのが一番良いのだろう。



< 160 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop