今夜 君をさらいにいく【完】


「今まで玲人の事はずっと見てきたつもりよ。あなたは私の心の支えだった。そんなあなたを私はこのまま見捨てられるわけないじゃない」


「恵理香・・・」



振り返ると、いつも強気で、自信に満ちあふれている恵里香の姿はどこにもなかった。



「お願い、今日だけでもそばにいさせて・・・?」



目を潤ませている。こんな恵理香を見るのは初めてだった。



「わかった・・・。だけど飯を食ったら帰ってくれるか?夜は一人でいたい・・・」


「・・・ええ。そのつもりよ」



恵理香の顔が少し緩む。



近くに美味しい惣菜の店があると言い、そこで何品か惣菜を買ってマンションへ向かった。


別に恵理香を部屋に入れたからって男女の関係になろうとは少しも思わない。というか、やっぱり妹のようにしか思えないのだ。


だからこうやって部屋に入れることもできるのだろう。



部屋に入ると、恵理香は部屋全体を見回した。



「シンプルな部屋ね、玲人らしいわ・・・桜井さんも何度か来たことがあるの?」


「・・・ああ」


「そう・・・」



惣菜屋からここまで休むことなく話し続けていた恵理香が急に大人しくなった。


そして袋に入っていた惣菜をテーブルに並べ始めた。



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