今夜 君をさらいにいく【完】

どんなに良い人でも、お客様はお客様。そう割り切って今まで働いてきたのだ。


恋愛対象になんて見れるはずがない。


店内はムーディなクラシックが流れており、窓からは六本木の夜景が一望できる。

今日のこのコースだって一万円以上はするだろう。


飯田さんと付き合ったら、お金に不自由しないのかもしれない。


そして何より私の事を本気で思ってくれている。風俗嬢だからって軽蔑なんかしない。それは今までの飯田さんの言葉やメールからひしひしと伝わってくる。



けれど・・・



私の中には黒崎さんがいる。



彼が私と付き合う確率なんて0に等しいと思うが、それでもいい。


会社で、彼の姿を見ただけで胸が苦しくなる。


そう思えるのはきっと黒崎さんだけだろう。


だから自分に嘘を付いてまで飯田さんと付き合う事はできない。



「やっぱり俺は特別にはなれない?」



私の顔を覗き込むように見つめてくる。




「・・・飯田さん」



「・・・ははっごめんごめん。困らせたね。サナちゃんのその困った顔に弱いんだよなぁ」



「す、すみません・・・」




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