シークレット ハニー~101号室の恋事情~
◇おあずけとご褒美



「けだるそうな顔してるわねー。やっぱり噂が気になる?」


閉店時間になり、閉まり始めたシャッターをぼんやり見ていると、隣に座る福島さんが言う。


「あ、いえ……。まぁ、気にならないって言ったらウソですけど。
異動の事は、もうほとんど吹っ切れました」


だるさの原因は別にあるなんて言えずに、苦笑いを浮かべる。

昨日、あの後、五十嵐さんはぐったりしている私に「ちょっと待ってて」と言い残して部屋を出た。
そしてすぐに、トランシーバーみたいな形の機械を持って戻ってきて。

スイッチを入れた途端、超音波の手前みたいな、ものすごく耳障りな音を立てた機械。
耳を塞ぎたくなる音を五十嵐さんは気にするでもなく、部屋の色んな方向に機械を向けて。
一通りそれをしてから、ベッドに近づいてスイッチを切る。

その後、おもむろに枕をとって、カバーを外して……。
そこで表情を緩めた五十嵐さんの手のひらには、数センチほどの盗聴器があった。


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