プラトニック
「――あ、あのさっ」


とっさに上ずった声が出た。


「あの、お腹空いたねっ」

「は?」


場違いなわたしの言葉に、瑠衣はあからさまに眉を寄せる。


その隙にわたしは彼の腕の間からさっと抜けた。


「こんな時間に食べたらやっぱ太るかなあ。でもお腹空いたら眠れないしね」

「葵」


ペラペラと喋りながら冷蔵庫を開けるわたしに、明らかに何か言いたげな瑠衣。


だけど聞こえないふりをして、冷蔵庫からプリンを取り出した。


「瑠衣も食べる?」

「……いい」

「そう」


わたしはひとりでプリンのふたを開けた。

本当はお腹なんかちっとも空いてないのに。


無理やり流し込むように食べて、容器をゴミ箱に捨てた。


「もう寝るね」


寝よう、じゃなく無意識にこっちの言い方になった。


「あ、そうだ。明日は同窓会があるから会えないと思う」

「同窓会?」

「うん。高校の」


瑠衣がピクリと反応する。


「高校って、元彼も来るんちゃうん?」

「……さあ」

「行くなよ」


こういうときの瑠衣は、急に子供のような顔になる。

たぶん本人はその逆のつもりだろうけど。

背伸びしようとすればするほど、悲しいくらい子供の顔になっている。


「瑠衣……心配せんといて? 久しぶりに友達に会いたいから行くだけやし」


「俺、明日も来るから。葵が帰ってくるの、この部屋で待ってる」
 

わたしたちは、ちっとも会話がかみ合ってなかった。
 

でも、かみ合うわけがないんだ。

ふたりの歯車はすでに狂い始めていたんだから。
 

わたしは瑠衣の言葉に返事をせず、眠ったふりをした。





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