プラトニック
「水野先生。質問いいですか?」


思わず固まるわたしに、笑顔でたずねる瑠衣。

手には、いつかの大学ノートを持っている。


ここが職員室じゃなかったら、わたしは間違いなく背を向けて逃げていただろう。


「ごめん、今ちょっと忙しいから……」

「質問はひとつだけなんです」


そう言って瑠衣はすばやくノートを広げた。

ずらりと並んだアルファベットの脇には、やはり文字がそえられていた。



“授業が終わったら、こないだのスタバで待ってます”



動揺が、顔に出た。

瑠衣にはきっと気づかれただろう。


「ここなんですけど、よくわかんなくて」


そう言って瑠衣の人差し指が、その部分を指す。


「……ここは、授業をしっかり聞いていれば理解できるはずやけど?」

「すみません」


白々しい会話は、周りにバレないためというより、むしろ瑠衣に対する精一杯の抵抗。


だけど彼に引く様子がないことは、その堂々とした態度からわかった。


「――じゃあ、失礼します」


ノートを返すと、瑠衣はぺこりと頭を下げて職員室を出ていった。

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