もうひとつの恋
「ごめん……結衣が悪いわけじゃないんだ……」


俺は彼女を抱き止めることもしないまま、ただ拳を握りしめた。


「だったら……なんで?」


抱きついたまま顔だけを上げて、結衣は涙に濡れた目を俺に向けてくる。


「好きな人が出来たんだ」


うまい言い訳も思い付かず、俺は馬鹿正直にそう告げる。


結衣は驚いように目を見開いて「浮気……してたってこと?」と、震える声で言った。


「そうじゃない……

俺の片思いで、相手は俺が好きだってことも知らない」


「じゃあ告白したら、振られるかもしれないって……こと?」


「いや……告白するつもりもない」


俺の答えが納得できないとでもいうように、結衣は急に声を荒げた。


「なに……それ?

それじゃ私と別れなくたっていいじゃない!」


俺が逆の立場なら、きっと結衣と同じことを言うだろう。


だけど、理屈じゃない。


「他に好きな人がいるのに、結衣と付き合ってるのが辛いんだ……」


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