僕は何度でも、きみに初めての恋をする。

「……ありがとう」


ぽつりと、口の中で呟いた。


変かなって思ったけど、他に何を言えばいいのかわからなかった。

お父さんもお母さんもわたしを見つめて、それからまた余計に恥ずかしげもなく泣くから。

わたしも泣きそうだったのになんだか気が抜けて、仕方がないからへらっと笑った。


まあいいか、と思う。

泣きたかったけれど、泣けなくなったこと。

まあいいんだ。きっと泣かなくたってよくなっただけだから。


だってこんなにも心の中、あたたかな気持ちになっているんだから。


泣くよりは笑った方が、なんか、お得な気がするし、お父さんとお母さんも泣きながら笑ってくれたから、よしとしようと思う。




──少しだけ、明るくなったような気がする。


明日から、きっと、世界は何ひとつ変わっちゃいないけれど、あの丘の上から見る空は、もしかしたら、今日までよりもずっと青く見えるかもしれない。

そう、きみの目がファインダー越しに見るその景色と、おんなじような、晴れた青に。


わかんないけれど。どうせ気のせいだけど。

それでもその気のせいを、精一杯、大きな声で、きみに伝えてみたいんだ。


きみが引っ張り上げてくれた世界には、光が確かにあったから。

真っ暗闇だと思ったそこには、小さな星が、煌めいていたから。

わたしはそこで、もう、膝を抱えずに、ちゃんと立ち上がってみようと思うよ。


だから、ね。

はやく、はやくきみに。


会って、話したいことがたくさんあるんだ。



ねえ、ハナ──


明日も、きみに会えるかな。


< 162 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop