朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
 旅の間は野宿だろう。


ちゃんと睡眠は取れているんだろうか。


 柚は暁のことを思うと、切ない気持ちになった。


早く会いたいな。


柚は暁の屈託のない笑顔を月に思い浮かべては、悩ましげな溜息を吐いた。


 だんだんと夜空に霧が濃くなっていった。


それでも月は明々と輝いている。


 急に冷たい風が吹き、ぶるっと身体を震わすと、辺りの異変に気が付いた。


霧が下まで落ち、くっきりと見えていた庭の風景がぼんやりと霞んでしまっている。


 柚は途端に息苦しくなってきた。


嫌な気配が辺りに漂っている。


霧はどんどん濃くなっていき、庭の片隅に集中していく。


そして霧は黒く丸く大きくなっていった。


 柚は怖くなって悲鳴を上げようとしたが、声が出ない。


声を奪われたかのように何も発することができないのだ。


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