朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「柚っ!」


 扉が突然開き、駆け込むように暁が入ってきたので、柚は持っていた茶碗を思わず落としそうになった。


「うわっ! 暁! 帰ってきてたのか!?」


 暁の登場に驚く柚に、暁は真剣な顔をして近付き、覆いかぶさるように柚を抱きしめた。


「良かった……」


 消え入るような声だった。


暁は柚の首筋に顔を埋めて声を吐いた。


普段の暁からは想像もできないような弱々しい声音に、柚は胸がきゅっと締め付けられた。


 苦しいくらい力強く柚を抱きしめ続ける暁に、最初は戸惑っていたが、だんだん母のような気持ちになり、暁の頭をポンポンと撫でた。


「悪かった、柚を一人にして」


「いいよ、暁のせいじゃない。それに、私は無事だったんだし」


「稚夜からの文を読んだ時、心臓が凍えるようだった。

もしも柚があのまま、物の怪に魂を喰われていたら、余は一生自分を責め続けていただろう」
< 168 / 342 >

この作品をシェア

pagetop