紫水晶の森のメイミールアン
「見た感じ、その出立ちは王宮の者ではなさそうだね」

 そう言われてみて、ハッと我に返って自分の姿を見たら、確かに酷いものだった。縮んでしわだらけで、綺麗に洗えなくて染みが落とせなくて染みだらけで、アイロンもかけられず萎れてクシャクシャのレースの下がったドレス姿に、いくら温泉源泉近くの湖近くで体を洗っているとは言え、髪の毛は自然乾燥でゴワゴワで、綺麗に結えなくてお化けのように乱れた髪の毛。きっと酷い姿に見えただろう。

「でも、とても綺麗な人形が転がってるのかと思ったよ。生きている人間だとは思わなかった。いくら見ても見飽きなくて、君が起きるまでずっと見てしまったよ」

「ええっ」

 そんなの、恥ずかしいわ……。

「もしかして、こっそり許可なく図書館に入って来たのかな?庶民は許可証がないと入れ無い所だからね。それなら見付かったら厳罰だから大変な事になるな。よし!私が許可証をとってあげるよ。ここの司書官とは知り合いだからね」

「はあ……」

「知っていたかな?ここは特に優秀と認められた者は、身分に関係なく特別許可証を与えて、好きなだけ本が読めるし、館内にある講義室で色々な優秀な学者の好きな分野の講義を聞けるし、学ぶ事も出来るんだよ。それにその許可証を見せれば館内食堂で無料でいつでも食事を食べる事が出来るし、宿泊施設や医療施設もあるし、男女別の浴場もあるし、全て無償で利用出来るんだ。あ、これは、苦学生の生活を援助して、思いきり学ぶ事が出来るようなこの国独自の政策でね。その代わりに将来自分の得意な分野で、5年間以上国の官職に従事してもらう事になっているけどね。特に罰則は無いし、その事は気にしなくても大丈夫だから。特別許可証を作ってあげるよ」

「そんな事……。いいのですか?」

 今自分の身に起こっている状況を考えれば、とてもありがたい事だ。いつまでも甘えると言う訳には行かないが、せめて石のあの家の修繕が住むまでの間、ここで世話になれたらとても助かる。

「気にする事はないよ。だが名前の登録がいるな。戸籍は適当に誤魔化してもらうとして……」

 青年は顎に手を置いて、小さなメイミールアンをじっと暫く見てから、何か考え込んでるような顔をした。そして、閃いたような顔をした。

「よし、瞳が紫色のアリッサムの花の色みたいだから、アリッサにしよう。姓は学名のロブラリア・マリティマからとって、ロブラリアにするか。ロブラリアはラテン語の「lobulus」が語源で意味は「小さなかけら」という意味なんだ。君は小さくて可愛いからピッタリだね」

 金色の瞳をキラキラと輝かせて笑う顔がとても眩しいと、小さなメイミールアンは思った。

「君は今日から”アリッサ・ロブラリア”だよ」
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