コンプレックスな関係
結局、陽典君にお茶をご馳走になってしまった私。


お店を出てお礼を言えば、陽典君は笑顔で手を差し出した。


「じゃあさ、お礼に手、繋いでよ?」
「へっ?」


驚く私に構わず、陽典君は私の手を取ると、きゅっと握った。


「篠井の手、小さすぎじゃない?」
「……陽典君の手がデカいだけでしょ」
「そおかなぁ?」
「そうです」


陽典君はくつくつと笑うと、手の繋ぎ方をするりと変えた。


指を絡める繋ぎ方。


「……っ‼」


驚いて顔を上げれば、陽典君は前を向いて楽しそうに笑っていた。


……私、今、絶対、顔、赤い。


絡まった指と、触れ合う掌が


痛いくらい熱かった。


違う。


これは恋じゃない。


頭で分かっていても、鼓動が速くなってるのは事実で。


なんだかくすぐったい気持ちに、私も自然と笑顔が零れた。


でも、これは恋じゃない。


冷静に思っても、このときの私は確かに心浮かれてたのだろう。


楽しかったんだ。


陽典君の真っ直ぐで思いやりのある優しさや、屈託のない笑顔。


その居心地の良さに、無意識に甘えていたんだろう。


だから。


気付かない。


貴哉が見ていたなんて。


気付きもしなかった。
< 74 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop