オートフォーカス
2人は当然のように並んで座って講義の始まりを待った。

講義が始まって少ししてから篤希は横に座る加奈の様子を伺う。

やはり真剣な表情で授業に集中していた。

すらすらと書かれていく文字は見やすくて、たまに見える英字の綺麗さが目を惹いた。

「なに?」

さすがの加奈も隣からの視線には気付いたようだった。

2人にしか聞こえないくらいの小さな声に何故か心躍らせ篤希も同じような声の大きさで答える。

「綺麗な字だなと思って。」

思いもしない言葉だったらしく、加奈は目を丸くして篤希の方を見つめてきた。

大きな目をして何度も瞬きを繰り返す表情は今日2回目だと心の中で笑う。

もしかしたら篤希がいつも感じているように、加奈も自分に不意をつかれているのだろうかと思ってしまった。

「ありがと。」

やがて驚きを消化した加奈は謙遜せずに褒められたら受け止めてお礼を言った。

彼女らしい返答に篤希は可笑しくなって口に手を当て噛みしめる。

絢子ならそんなことはないと手と首を振ってひたすら謙遜するだろうに、加奈は褒め言葉を有難く受け取ってお礼を返すのだとまた比べてしまった。

そして褒めた言葉は受け取って貰えた方が嬉しいものなんだと自分の感覚も思い知る。

その時おり見せる大人っぽさが加奈の魅力だと、顔がゆるんだ本当の理由をまだ篤希は知らなかった。

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