オートフォーカス
それに気付いた絢子は苦笑いをして目を伏せる。

伸び上がっていた体は寂しげにゆっくりと元の位置へと戻っていった。

「…おかしいな。少し前ならもっと距離が近かった筈なのに。」

体が離れ、数分前までの距離感に戻ってまた吐息だけの苦笑いが聞こえる。

絢子の表情は俯いたままでよく分からない。

しかし聞こえてくる声は震えているのが分かった。

「今は…誰か違う人が心の中にいるのかな。」

「誰かって…。」

「顔に出てるよ。」

あの時の加奈と同じ言葉、篤希は加奈の姿を思い出し目を泳がせてしまった。

とっくに気付いて温めていた気持ちが胸の中でくすぶっている。

態度で見せる本当の気持ちは言葉よりも絢子を突き放した。

「勿体ぶらずにさっさと告白すれば良かった。…おかしいな。」

俯いていた顔を上げて絢子は苦々しく笑った。

その笑顔はもう泣き顔と言った方が正しいくらいにとても儚くてもろい。

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