緋~隠された恋情

「もうっ!おにいちゃんたら。

 当分男はたくさんよ。

 婚約解消したばっかなんだから、

 手放すとか今はやめてよね。」


「そうだったな。」

「なんならずっとこのままいようかな。」

「それはダメ。

 ちゃんとありさが幸せになってくれないと、

 なくなったオヤジ達に申し訳が立たないから。

 俺はそのためだけに存在価値があるんだから。」

ズキンとした。

そう、いつだってそうなの。

お兄ちゃんにとって、私は、

妹としての絶対値がガッチリと確立されている。

中一で、あんお絶対値の記号を数学で習ったとき、

まるで、私とお兄ちゃんをあらわすのにぴったりだと思った。

わかっているけど、わかってたけど、

妹以上の存在として認められていない。

普通の兄弟以上にがっちりとした線引きが私たちのあいだには存在している。

私の幸せって何?

どういうことが私の幸せだって思うの?

少しも分かってないんだから、

私の幸せは、おにいちゃんがとなりにいるっていうことなのに。


「結婚が全てじゃないんだって、

今回の徹平のことでよくわかったでしょ。」


「ありさ、彼のことはもういいのか?」


「うん。」


見つめ合ってしまったけど、

そのあとの言葉が出てこない。
  
そんな顔しないでよ。

まるで好きって言われてるみたいな気分になるよお兄ちゃん。


「向こうついたらさっそく材料とか注文しなくちゃね。」

「ああ、忙しくなるな。」

先に話題を変えたのは弱虫な私。


ずきんっ

胸が痛くなった。


私ってば、お兄ちゃんのそばにまだいられる理由があることが、

こんなにも嬉しい。



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