Momentary


派手に散らばった服を集め、手早く身に着ける。

女は俺に背を向け、恥ずかしそうに身を隠しながら着替えていた。

俺に対して羞恥心を見せる仕草にひどく感動するのはこんなときだ。



「水しかないけど 飲む?」


「あぁ 本当は壁に並んだビンの中身が欲しいが 今は我慢するか」


「お酒 好きなの?」


「嫌いじゃない」


「そう……私達 一緒に飲んだこともないわね」


「あぁ ベッドで寝たのも一回きりだ」


「言われてみればそうね いつもベッドが遠いところばっかり ふふっ」



酒を飲むどころか、食事をした事もない。

一緒にいられる時間はごく僅か。

俺たちは、物を食べるより互いの体をむさぼる方を選んできた。

椅子に腰掛け話をするのさえ久しぶりだった。



「新しいトレーニングを始めたのか? 

太ももの筋肉がほどよくついて良いしまり具合だった」


「ねぇ もっとほかに話題がないの? いやらしいことばっかり」


「真剣な話をしたいのか? なんの訓練をしてるんだ 

今度の任務は何だって聞いてもいいのか?  聞かれたら困るだろう……」


「そうね 困る……このあとどこに行くつもり? 

……って聞いても アナタ答えないわよね」


「聞いてどうする 俺を追いかけて捕まえさせるか」


「そんなことできない……意地悪を言わないで」



女の声が掠れ、浮かんだ涙をじっと堪えている。

抱き寄せて頬を撫でると女がしがみついてきた。





別れのときは容赦なくやってくる。

煙草を一本吸ったのち、俺たちは立ち上がった。



「外はまだ安心できないわ 気をつけて」


「わかってる……じゃぁな」


「じゃぁ……また……」



ビルを出ると互いに別の方向へと駆け出した。

体に余韻を感じながら、俺の頭の中はもう新しいことへと向かっていた。

 



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