学園怪談2 ~10年後の再会~
 ……。
 その日の夜。定時より少し遅いくらいの時間で上がったパパは、細心の注意を払いながら自宅へ向かった。
 ……自宅に近付けば近付くほど、例のミクの気配が強くなってくる。間違いなく今夜もミクは家の側にいるはずだ。それだけならいいのだが、最近のママの様子を見る限りでは明らかにミクとのコンタクトをとっているように思えた。
押入れにしまい込んであったはずのミクのおもちゃを突然出してみたり、晩御飯の食卓にミクの分まで食器を並べたり、まるで昔の……3人で暮らしていた時のように穏やかな笑みを浮かべる時もあった。しかし、それを確認する勇気はなかった。『ミクを忘れろ。それがあの子のためなんだ。供養になるんだ。いつまでも縛り付けるから、ミクはこの世に未練を残すんだ』何度も口先まで出かかった言葉だったが、はっきりと言う勇気はなかった。
……それは自分に対しても同じ気持ちだったからかも知れない。娘の死を認めたくない気持ち。しかし、いつまでも執着する訳にもいかない現実。今はとにかく、事実を確認しなければならないという事だけを最優先させた。
庭に出て、街灯で自分の影が室内から見えないように注意しながら室内を覗いた。そこで、パパは想像を絶する光景を見た。
「はい、ミクこれも食べなさい~」
「……」
 ちゃぶ台の前に座るママと、そのとなりで同じように座ってお椀を持つミク。前にテラスで見た時よりもさらに青白くなり、眼は白目を剥いてユラユラと頭を揺らしていた。
「……ミク。やっぱり、まだ成仏できないんだな、お前は……」
 悲しかった。目の前の驚愕の光景に、恐怖や驚嘆よりも、悲しさの気持ちの方が遥かに大きかった。命の終わりを認められないママ、死に切れないミク。二人の接点は今、あのママゴトによってのみ繋がれているのだ。
「パパが帰って来たよ。お帰りなさいパパ」
 ……いつの間にかパパは玄関にまわり、中に入っていた。
 笑顔で出迎えるママ、その顔には一点の曇りもない。奥の方ではママゴトの続きをしているのか、ミクの遊ぶ音が聞こえてくる。
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