愛を知る日まで
ゴトンゴトンと電車の揺れが心地好くていつの間にか寝ていた俺が目を覚ましたのは、車内に熱気が籠ってきたからだった。
はっと目を開くと目の前には座れない乗客が鈴なりに立っていて、車内は随分に混雑していた。
「ん…」
欠伸を噛み殺して覚めたばかりの目をしばたいてると、俺の席の斜め前に腰の曲がった婆さんが危なげに立っている事に気づいた。
「婆さん、座れよ」
俺は自分の腰を浮かせながら婆さんの手を引っ張って言った。
途端に周りの奴等が俺を横目で注目する。
なんだよ、うぜえな。
そう思いながら立ち上がって婆さんの手を引き席へ座らせた。