ALONES



早速オールを使って舟を漕ぐが、肝心のそれはキーラに任せっぱなし。


本来ならば、力のある男が担うべき役なのだろうが、
病持ちの僕にはオールが重すぎて、漕ぐ前に海に沈めてしまうのがオチだ。


申し訳ないなと項垂れるけれど、彼女は微塵も気にしていない様子で。



『なにしょぼんとしてるのよ。別に男だからどうのこうのって、私あまり気にしないわ。』



それどころか、服の袖をまくりあげて、漕ぐわよ!と気合を込める。



嗚呼、本当に。彼女の優しさが辛い。

でも心の底から感謝している。


甘えていいのかな、と思いながら『ありがとう。』と呟けば、『なによ、気持ち悪いわね。』と彼女は笑って。


彼女の笑い声と共鳴するように、海鳥たちが囀り、潮風が頬を撫でた。


秋の暖かな太陽がさんさんと降り注いで、水面に反射する。


キラキラと輝く水面を見つめ微笑む彼女の青い瞳は、遠い世界に繋がる水平線の様で。



そっと目を閉じる。


あまりにも幸せな時が心を満たしてゆく。




すると、ふいにスゥと息を吸い込む音が聞こえて、瞼を持ち上げた。




その、刹那。



心臓まで響くような美しい歌声が、辺り一面に響き渡った。

鼓膜を揺るがす音は波紋を広げ、人魚の歌は全てを惹きつける。
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