『無明の果て』
仕事が立て込んで寝不足が続いても、目の下のクマや化粧のりの悪さを指摘されても、好きな事をしている満足感で、私は胸を張れる。


そうやって、頑張って来た。


そしてそれは、一生涯のテーマとして途切れる事はないと信じている。


しかし、カッコイイなんて少しでもお声がかかるうちに、誰かと並んで生きて行ける長い道のりのスタートラインに、立ってみたいと願っているのも事実である。



親が元気なうちに嬉しい報告をして、ドラマのようにハラハラ涙を流し、緊張する彼を紹介する。


そんな場面を、何度思い浮かべたことか。


あの夜、メールのやりとりは四時近くまで続き、『西山 涼』という名前と、返信無用の最終メール!を受け取り、眠りについた。



涼は一行と過ごした学生時代の話しや、一行の前の彼女がひとつ年上だったこと。


そして、その彼女が、なにげに私に似ていると教えてくれた。


だけど、そのことは、一行には言わなかった。


悪い事をしているわけではないが、なぜか話せなかった。



私の場所から一行のデスクは見えない場所に移り、研修後の配属は私の管轄外になり、彼の頑張りを私なりに見守るだけになった。


たまにはランチに誘って、あの時約束した次の集まりのセッティングをしなきゃ。


涼はちゃんと来るかな。


「鈴木、鈴木一行くん!」


「国会答弁っすか。」


「頑張っている君に、お昼をご馳走しよう。」

「おっ!」


あの夜、一行の前で流した涙のわけを、彼は聞かない。

気まぐれな女だと笑っているかもしれない。

「週末あたり、予定ある?」


「ガラガラっす。
イイっすね。
先輩が幹事っすよ。」


「じゃあ、時間と場所は一斉送信するから。」

「俺には今教えて下さいよ。
それとも、今晩下見ってのはダメすか?」


やっぱり私は、元カノに似ているのかな。


「じゃぁ、仕事早く終わらせなさいよ。」


「プレッシャーなんかに負けないぞ!
なんつって。」


こんな弟がいたら、どんな所でも連れて行くだろう。

嫌がるのを強引に、腕なんか組んだりして。
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