ピエロ-私と中年男の記録-
提出
ピエロに着いた。

相変わらず、お洒落でも無ければ、綺麗でもない。

しかし、行く度、だんだんと魅了されていくのだろう。

煙草も嫌では無くなっていた。

コーヒーの苦い香りも、香水の香りも。

ドアを開けると、ママが迎えてくれた。

「べっぴんさんが、三人も。」

そう言いながらママはカウンターの空いている席に座るよう、手で案内した。


既に座っている大人がこちらを見た。

「考えてきてくれたか。」

あのおじさん。

「今日考えて良い??お母さんと。」

「良いよ。ありがとう。」

おじさんはママから渡されたオレンジジュースを私と妹の前に置いてくれた。

「おじさん、手、小さいなぁ。」

私はぎょっとした。

妹がおじさんの手に触れている。

私は父以外の大人の男性に触れたことがない。

母に目で訴えた。

母は声に出して笑っている。

おじさんは、ぽかんとして母を見ている。

「見て。おじさんの小指の大きさ、私と同じやもん。」

妹が言った。

母はまた笑いながら言った。

「ほな、小指のおっちゃんで良いんちゃん。」

「おぉ。良いなぁ。それでいこうか。」

私に笑いながらおじさんが言った。

私はペースを戻そうと笑った。

一人だけ、子供っぽいぞ。恥ずかしいぞ。

そう言い聞かせた。


あだ名、決まり。


小指のおっちゃん。
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