秘密の恋


映画完成記者会見の雛壇へ、男優Yと手を繋いで上る。

フラッシュを意識した男の手が私の腰を引き寄せ、私も妖艶に微笑んで

みせた。

一通りの質問のあと、映画初出演のTにマイクが向けられ、

今回の撮影で得たものは何かと、女性週刊誌の記者から質問があった。


「Mを心で抱きました。愛しています」

「プライベートでも、ということですか」

「どのように受け取ってもらってもかまいません」


Tの答えのあと、会場は異様な熱気に包まれた。

Mとは私が演じた役名だった。

端役のクセに俺に張り合うつもりかと鼻で笑う隣の男へ、私はこう告げた。


「別れましょう」

「はぁ? 冗談だろう!」


さよなら、と言い残して会見場を出ると、記者を引き連れてTの楽屋に向かい

扉を開けた。


「心から抱いて」


私は、腕を広げたTの胸に飛び込んだ。

本物の愛情こそ映画の宣伝に効果的なのよ、と彼の胸でつぶやいた。




< 9 / 9 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:4

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

ボレロ - 第一楽章 -
K.撫子/著

総文字数/181,340

恋愛(純愛)160ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
手入れの行き届いた肌は  薄く差し込んだ昼の日差しに反射して艶を見せていた 彼女の膝頭から ゆっくりと腿の内側へと唇を滑らせながら  気になる取引先の名を口にした 普段日の当たらない 真っ白な足の付け根へと唇がたどり着く頃 ふふっと笑ったかと思うと くすぐったそうに身をよじり  彼女は体の向きを変えた 【プロローグより】 『近衛ホールディングス』 副社長 近衛宗一郎 繊維業界トップメーカー『SUDO』 社長令嬢 須藤珠貴 偶然の出会いが重なり、やがて、かけがえのない相手になっていく それは、ひそやかにはじまった ラヴェルの 『ボレロ』 を奏でるように  
Shine Episode Ⅰ
K.撫子/著

総文字数/113,098

恋愛(純愛)70ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
香坂水穂が、ICPO帰りの捜査官 警視 神崎籐矢に出会ったのは、 夏の暑さもようやく落ち着き、朝夕の風に秋を感じ始めた頃だった。 過去を背負い影のある神崎籐矢と、正義感にあふれ快活な香坂水穂 正反対のふたりは、対立しながらも信頼関係を築き、 公私ともに唯一無二のパートナーになっていく・・・ (一部『ボレロ』の登場人物とリンクしています。合わせてお楽しみください)
恋、花びらに舞う
K.撫子/著

総文字数/36,854

恋愛(純愛)25ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
春の優しい風に吹かれて、はらはらと花びらが舞う 桜に切ない思いを抱える由梨絵に訪れた恋……

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop