リアル
 自分の為、自己満足の為に動いているだけなのかもしれない。
 そしてただ逃げただけなのかもしれない、繰り返し続けた自分戦争から。サトシの為という名目掲げ脱走した。
 到着を待ちわびる人達の隙間にキイチを見つけた。
 久しぶりに見るその顔は白く悲しく歪んでいた。この場でもらい泣きしてしまいそうなくらいに悲しく。
 小走りに近付く俺に気付き、歪んだ顔を上げ俺に向かって手を上げるキイチ。
「サトシどうなん?」
「お前に電話してからまだ病院行ってないけーわからんけど、なんも連絡ないけー変わってないと思うわ」
「そっか」
「ん、とりあえず帰ろうや」
 歩き出すキイチの後を追い駐車場に向かう。
 車に乗り込み慣れた手付きで車を操るキイチの様子を眺める。
 走り出しても何も喋ろうとしないキイチから目を離し、俺が口を開いた。
「あいつそんな怪我酷いん?」
「ん・・・」
「大丈夫なんやろ?」
「わからん」
「大丈夫やろー、サトシやもん」
「わからん」
「なんなんお前」
「わからんもんはわからんのっちゃ」
 それから二時間、サトシのいる病院に着くまで俺たちは一言も喋らなかった。キイチもただ前だけを見て黙々と車を操っていた。
 確かに俺はサトシの状態を聞いただけで、見たわけじゃないし、本当の事として受け入れきれていない部分があるのは事実だけど、何を聞いてもわからんしか言わないキイチの言葉にうんざりすると同時に、サトシの現状を目で見て確認し、実感しているキイチのわからんという言葉からは微かに絶望の匂いがした。
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