リアル
 おばちゃんの座った長椅子の端に座る二人の友達を見つけた。
「タツ」
 側に寄り声をかける、顔を上げても何も喋ろうとしない。 タツもキイチと同じ顔をしている、たぶんいまの俺も同じ顔。
「ハル、大丈夫か?」
ゆっくりと上げた顔は白く、目はいまにも潰れてしまいそうなほど涙でぐちゃぐちゃだった。
 こいつも何も喋らない、俺も何も喋れない。
 振り向くとキイチはまだガラスの前にいてサトシを見ていた。キイチの横に戻りまたサトシの胸を見つめる。
 誰も何も話さないままサトシのことだけを考える。
 頭の中を駆け巡る言葉は違っても、考えていることはみんな同じだろう、きっとみんな希望と不安を戦わせている。誰とも共有せずに、できずに、無言のまま自分戦争サトシ戦を繰り広げているんだ。希望が勝つことを祈りながら、サトシの姿を見る度に膨らんでいく不安に押されながら・・・。
 自動ドアが開き、サトシの父親が慌ただしく入ってきた。
 おじちゃんもおばちゃんと同じ顔をしている。
 おじちゃんはガラスの前に立っていた、俺に気付くと頷きながらおばちゃんの隣に座る。そしておばちゃんの背中を摩りながら潰れた声で言った。
「お前ら、もう夜やけー、今日はもう帰れ。なんかあったらちゃんと連絡するけー」
 その声を合図に全員がもそもそと動き出す。タツがハルの腕を引きながら自動ドアを抜けた。その後にキイチが続く、俺はサトシの両親に声を掛けようと二人の方を見たが二人とも目線をサトシに向けたまま動かなかったので何も言わず、三人の後を追った。
 暗い廊下を進む四人分の足音。
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