お嬢様になりました。
私は一歩、また一歩とおじさんに近付いた。



「葵!! 部屋に行ってなさいッッ!!」



お母さんの声に肩はビクッと跳ね、私は足を止めた。


この時初めてお母さんに怒鳴られた。



「葵、と言うのか?」

「はい……」

「いい名だ」

「ありがとうございます。 お婆ちゃんがつけてくれたんです」

「菊代(キクヨ)が……そうか……」



おじさんはお婆ちゃんの名前を愛おしそうに呟いた。



「帰って下さいッお願いだから……帰って……」



なだれ落ちる様に座り込むお母さんの肩を抱くお父さん。


お父さんはおじさんに対して少し申し訳なさそうな顔を浮かべていた。


おじさんは小さく頭を下げると背中を向け歩き始めた。


無表情な男の人もおじさんの後ろにピッタリくっついて歩き始めた。


お母さんのすすり泣く声がする中、私はおじさんの背中をただ見つめる事しか出来なかった。






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