お嬢様になりました。
暫くして私はベッドに横になり、ベッド脇に座る玲がずっと頭を撫でてくれている。


まるで小さな子供になった気分だ。



「玲は横になってなくて大丈夫なの?」

「対した事ないって言っただろ? 今は自分の事だけを考えていればいい」



私の事を甘やかす天才だと思う。


こんなに綺麗で優しくて、包容力のある人が傍に居るなんて、未だに信じられない。



「あの花は俺と神園、橘、三人からだよ。 大勢で押し掛けても迷惑だろうからって、俺だけで来たんだ」

「そうだったんだ……芽衣と橘さんにもお礼言わなきゃ」



隆輝は入ってないんだ。


そうだよね。


散々酷い態度取っておいて、気に掛けてくれるわけないよね。


やっと気が付いた、自分の気持ちに。


あんな目に遭わなかったら、気が付かなかったかもしれない……そう思うと少し複雑な思いになる。


死ぬかと思った時に真っ先に頭に浮かんだのは、隆輝の顔だった……。


あんな切羽詰まった状況の中、隆輝と最後に交わしたキスを思い出した。


今までの中で一番甘くて優しいキス。



「葵?」

「……隆輝は?」



私の頭を撫でる玲の手が止まり、玲はそっと視線を落とした。



「さぁ……連絡取ってないから分からない」



人伝えに“お前なんてどうでもいい”と隆輝に言われた気がして、気持ちが沈んでいった。


そんな資格すら私にはないのに……。





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