いい男【TABOO】
いい男
いい、男。
グラス越しに見た横顔にたまらなく惹かれた。
同窓会の二次会。
近く結婚が決まっているあたしのために、同級生たちがサプライズで開いてくれたパーティー。
そこに、仕事の都合で同窓会に出席できなかった、高校時代に憧れていた彼の姿があった。
グラス片手にスーツを格好よく着こなし、スマートな立ち姿で級友たちと談笑し、時折、近く新婦となるあたしに笑顔を向けてくれる。
白い歯と、変わらない爽やかな笑顔。
彼に焦がれ焦がれて、同じ部活に三年も在籍していたのに、彼には当時彼女がいて、それ以上は近づくことができなかった。
今は立場が逆となってしまっているなんて、何て皮肉。
「結婚するんだってな、おめでとう」
幸せなはずなのに、落胆してしまう。
そんなあたしに突然、シャンパンを手にした彼が近づいてきて、グラスをあたしに渡してきた。
そして――
すれ違いながら、あたしの少し華やかなワンピースの胸元に、名刺を素早く差し込んだ。
“店の裏で待ってる”
一胸にして、胸がときめいた。
焦がれ焦がれ、泣いた夜。
新しい出逢いで忘れられたと思っていたのに――。
周囲の級友たちに気づかれぬよう、その名刺を素早くポケットに入れ、腕時計を見た。
もうすぐ、終電――。
誘いを受けたら、帰れない。けれど――。
落ち着いた足取りで、誰にも何も言わず、店を出た。
あたしには、将来を誓う約束をした、彼がいる。
だけど、ここにその彼がいるわけじゃない。
いるのは、かつて恋い焦がれた男――。
「……来ると思ってたよ」
店の裏で格好よく一服していた彼があたしを見つけて微笑んだ。
「さぁ、行こうか」
無駄のない動きで手を差し出してくる。
あたしはうなずいて、その手を取った。
もう、逃さない。
あたしの、いい男。
fin