藍白の鬼


風呂の準備ができたと葉月から聞いたあたしは、脱衣所で着ていた着物を脱ぎ風呂に入る。


「なんじゃ蓮華、ゴボウみたいじゃのう」


「ゴボウ!!?」


あろうことか、混浴だった。


突発的に言い返してしまったが、いやいやそれはない。


きっと今日あたし疲れてんだな。


風呂場から出て、あたしはもう一度、入る。


「もやしじゃな」


「……なんでいんの?」


幻覚、じゃなかった。


優雅に風呂に浸かっている京次がいた。


「つか、何故変える!!?細いって言えよ!!!そんな言い方だったらあたしがひ弱みたいじゃん!!!」


もやしって、もやしって。


年頃の女の子になんてこと言うんだ、こいつは。


湯船につかって一息ついていると、ぬっと横から手が伸び、そのままあたしの胸に行こうとするので、掴む。


「ひ弱じゃろうが。ホレ、あー……」


紛れもない、京次のうでだ。


「どこ触ろうとしてんだテメェ!!?」


「乳」


「フツーに答えんな、ハゲ!!!てか、これは筋肉だから!!!胸筋だ!!!」


「何を言うか。儂のを見てみい、これが胸筋じゃ小娘」


そう言ってどやぁと胸を張る京次。


「………………」


鍛え上げられている胸筋を見たあたしは、ぐうの音も出なかった。


畜生。


「蓮華、」


じっと睨んでいると、京次があたしを呼ぶ。


「…なに」


「処女か」


あまりにもデリケートの無さに、あたしは思わず手が出た。


だけどあたしの手は京次の頬に当たることなく、彼の手に吸い込まれていった。


「…儂に手をあげるとは随分じゃのう、蓮華?」


声のトーンが一つ下がった。


どうやら彼の機嫌を損ねたらしい。


あたしの手をひいて、身を近づけてあたしの顎を持つ。


こんな状態で、こんなに近くて、もう恥ずかしくて泣きそうだった。


「…………っ……」


「何か言いたげじゃの。どれ、言うてみい」


京次はあたしに挑戦的な目を向ける。


「…あたしは……あんたなんか絶対好きにならない」


精一杯の拒絶の言葉のつもりだった。


だけど彼は、一瞬面食らった顔をして、「いや、」と余裕そうな顔をする。


「なによ」


それがひどくイラついた。


「お前は儂に惚れる」


京次が意地が悪そうに口に弧を描いた。


「………」


それだけ言うと、京次はここから出て行き、広い浴場にはあたし一人になる。


京次がいなくなった途端、押し寄せる安堵と寂しさの波。


「ちくしょう…っ」


何故か分からないが、涙があふれた。
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